アカデミック・ジャパニーズ・グループ研究会

2012年度

第27回研究会

アカデミック・ジャパニーズを問い直す

前回の協働実践研究会との合同研究会ではAJにおける協働の重要性が明らかになりました。
一方で、AJとは何かという問いに対し、その意味付けは各実践者によって様々であることも
分かってきました。AJGでは「アカデミック・ジャパニーズの理念の構築と教育方法論の研究」
を規約に掲げ、2004年度の発足以来、様々な最先端の分野の講演やWSを実施し、
大きな視点で「ことばの教育」としてのAJを捉えようと試みてきました。しかし、教育方法論
の議論は深まってきたものの、AJの理念構築においては今後も継続的な議論が必要です。
そこで、6月の研究会では私たち一人ひとりにとってAJとは何か何をめざすのかを
問い直しました。その際、抽象的に考えるのではなく、対象が異なる実践の発表を通し
その広がりと問題を共有しました。その上でワークショップの議論を通し「私にとってのAJ」
を考えを深めました。

第27回研究会世話人
小笠恵美子(東海大学)
木下謙朗(朝日大学)
佐藤正則(早稲田大学)
武一美(早稲田大学)

日時:2012年6月23日(土)13時00分~17時30分
場所:早稲田大学(11号館)704教室

プログラム
13:00~13:30      総会
13:30~13:45      休憩・非会員受付

13:45~14:05       基調発表 
アカデミック・ジャパニーズのこれまでとこれから
門倉正美(横浜国立大学

日本留学試験のシラバスが「アカデミック・ジャパニーズ」というコンセプトを
提起してから約10年が経った。AJの教育研究のこれまでの流れと、
今後の展望について、私感を述べたい。「教養教育としてのAJ」
「日本語表現法としてのAJ」「多読・速読へ」「メディア・リテラシー」などが
キーワードとなるだろう。

14:05~14:50   発表(各発表15分)
体育大学におけるアカデミック・ジャパニーズ
影山陽子(日本女子体育大学)

日本女子体育大学では、今年度から新たな切り口のアカデミック・ジャパニーズを
試みている。体育学部のみの単科大学であるという特徴を活かし、スポーツ選手が
書いた本を用いて、学生の興味関心・学習動機を維持しながら、
読書へのいざない・要約の方法・発表の仕方・書評の読み方書き方など
アカデミック・ジャパニーズの基礎を学ぶ。この試みについて報告し、
アカデミック・ジャパニーズの目的および目標設定、実施方法について、
学生の特性をどのように取り入れていくか、その点について議論をした。

学習者の自律的な選択を促す教室活 動 ―日本語学校における実践―
江森悦子・齊藤千鶴(アークアカデミー)

私達が対峙する学習者の多くは進路選択の過程で迷いを抱えている。
アカデミック・ジャパニーズとは、狭義には大学等の学問フィールドで運用できる
日本語表現力、課題解決力を指している。しかし、その前提として学習者が
自己理解を深め、社会的文脈の中で自己を見出す力や、自律的に進路を
選択する力が必要になる。このような力を広い意味でアカデミック・ジャパニーズと捉え、
日本語学校で実践した教室活動を紹介した。

高校の日本語教育における将来を見据えた実践から考える
-私にとっての「アカデミック・ジャパニーズ」とは何か-
横山愛子(早稲田大学)・人見美佳(早稲田大学大学院日本語教育研究科修士)
外国につながる高校生に必要なことばの力とは何か。1年半に渡る実践を踏まえて
見えて来た課題を明らかにし、現状や学校の体制を見直し、彼らが将来にどう日本語を
生かしていくのかという視点から高校でのことばの学びを問い直す。彼らの将来を見据えた
実践を通して、高校生への日本語教育から「アカデミック・ジャパニーズ」とは何かを考えた。

14:50~17:00       ワークショップ
14:50~15:40       グループディスカッション
15:40~16:10       共有+休憩
16:10~17:00       まとめ(発表と協議)

第28回研究会

ソーシャル ・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用した学習環境デザイン
近年、ソーシャル ・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用者が急増しています。その中でも、Facebookは世界中に8億人を超えるユーザーがいると言われています。また、知識基盤社会においては「21世紀型スキル」(21st-Century Skills)の育成が急務となっており、テクノロジーを駆使しながら他者と協働的に学ぶ場をデザインすることが、今、教育に求められています。11月の研究会では、SNSのひとつであるFacebookを活用し、学習環境をデザインするワークショップを実施しました。

第28回研究会世話人
石毛順子(国際教養大学)
高橋 薫(東京大学)
ボイクマン総子(東京大学)

日時:2012年11月17日(土)13時00分~17時00分
場所:東京大学 本郷キャンパス 福武ホール 地下2階ラーニングスタジオ

<プログラム>
12:40 受付開始
13:00 会員報告
13:10 趣旨説明
13:20 話題提供1 高橋薫(東京大学)
「『人と人のつながり』を付加価値に変える学習環境デザイン」
13:40 話題提供2 石毛順子(国際教養大学)
「ゆるい継続性を持った、学生とのFacebookコミュニティの実践過程」

14:00 ワークショップ
ソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)を活用した学習環境デザイン
ファシリテーター:安斎勇樹氏
(東京大学大学院学際情報学府大学院生 Ba Design Lab主催)

*体験してみよう
*教育利用を考えよう
*情報共有

16:50 まとめ
17:00 閉会

ワークショップの詳細についてはこちらの開催報告をご覧ください。

第29回研究会

研究発表 「アカデミック・ジャパニーズ」と
ワークショップ「シナリオ発想で考えるアカデミック・ジャパニーズ
〜読み手(他者)を意識し、意図を伝える〜」

午前の部は「アカデミック・ジャパニーズ」というテーマでお互いの実践や研究を報告し、
出席者同士で質問や意見交換を行いました。また、午後の部はワークショップ「シナリオ発想で
考えるアカデミック・ジャパニーズ〜読み手(他者)を意識し、意図を伝える〜」を行いました。
ファシリテーターには40年以上にわたり多くのシナリオライターを輩出してきた「シナリオ・
センター」三代目の新井一樹氏をお迎えし、シナリオ発想を体験するワークショップを実施
しました。意図を正確に伝えるために「読み手のことを考える」「異なる意見を持った他者を
意識する」これらはアカデミック・ジャパニーズにおいても重要な事柄ですが、あまり取り上げ
られません。また、核家族化が進み、家族や教員以外と接することが少ない環境で生まれ育った
今日の学生たちは「他者」を意識することが苦手であり、指導しにくい部分でもあります。
シナリオライターは、登場人物すべての性格や気持ちを想像して、人物同士のやりとりを書いて
いきます。シナリオを書くためには、自分以外の性格や考え方、立場を登場人物の数だけ想像する
必要があります。ワークショップでは、シナリオの書き方を学び、実際に短いシナリオを書き、
共有します。その上で、シナリオ発想が、アカデミック・ジャパニーズの世界でどのように
活かせるか、「一億人のシナリオ」プロジェクトを主催する新井一樹氏とともに、議論を深め
ました。

第29回研究会世話人
影山陽子(日本女子体育大学)
佐藤勢紀子(東北大学)
清水まさ子(国際交流基金)
大島弥生(東京海洋大学)


日時:2013年2月2日(土)10時00分〜17時00分
場所:東京海洋大学 品川キャンパス 白鷹館

<プログラム>10:00 受付開始
午前の部:会員による口頭発表
10:30 口頭発表1 
◇口頭発表1A:髙橋俊夫(神奈川県立横浜桜陽高等学校)・髙橋圭子(東洋大学)
「高校における「コミュニケーション・トレーニング」の実践報告」
高校での選択科目「コミュニケーション・トレーニング」において、単なるコミュニケーション
のノウハウ伝授にとどまらない、自己表現と相互理解、更には人権尊重や世界理解を目指した
実践を試みた。軸に据えた理論と方法は次の3つである。
1)演劇教育で開発された「シアターゲーム」
2)開発教育において提唱され実践されている「参加型活動」
3)日本語教育において実践されている「会話」のための諸活動
結果として、生徒達の積極的参加と相互コミュニケーションの促進という点は
十分成功したと考える。しかし、人権や世界の問題の認識という点については、
一定の成果はあったと思うが、その結果を検証できるところに至ってない。
今後さらに授業全体の目標・構成の精緻化を図りたい。

◇口頭発表1B:ボイクマン総子(東京大学)
「初級前期からのアカデミックジャパニーズ―初級前期の段階で実践可能なこと」
本発表では、日本語初習者に対するアカデミックジャパニーズの授業実践報告を行う。
受講者は正規学部生で専門の教育は英語で受ける英語コースに属している。
しかし、その専門は「国際日本研究(Japan in East Asia)」であり、在学中、日本語を
使用して研究を行う可能性もある。発表では、日本語での学術研究が求められる学生に
対して初級第1学期からできる/提供すべきアカデミックジャパニーズについて議論したい。

11:15 口頭発表2 
◇口頭発表2A :脇田里子(同志社大学)
「学部留学生を対象にした文章構成分析による論説文読解」
読解と連携した文章作成支援を行うことを目的に、論説文の文章構成に着目した読解方法に
ついて発表する。学部留学生を対象とする。その方法は論説文の読解後、構成要素ごとに
内容要約と機能を提示し、文章構成を可視化し、「文章構成図」や「ロジック・チャート」
として示すものである。新聞の投稿オピニオン(約1000字)を分析例として挙げ、具体的な
分析方法を述べる。分析を通じて、学習者が文章理解を深めるだけでなく、文章作成において
文章構成をイメージできることを期待している。

◇口頭発表2B :瀬尾匡輝(香港理工大学)
「海外の高等教育におけるアカデミック・ジャパニーズ(AJ)とは
-香港の学習者へのインタビューを通して-

本研究では、香港の大学副専攻の日本語履修者6名へのインタビューから、彼・彼女らが
盲目的な日本への憧れから娯楽と消費(Kubota 2011)として学習し、メディアなどで
目にした日本語や日本文化を無批判に受け入れていることがわかった。目標言語圏への
ステレオタイプが問題となる海外の日本語教育(e.g. 熊谷 2008)では、門倉(2003)が
述べるような論理的・批判的思考能力が特に重要であるといえよう。本発表では、調査の結果
を踏まえ、海外の高等教育におけるAJのあり方を参加者と共に再考したい。

午後の部:ワークショップ 
13:30 「シナリオ発想で考えるアカデミック・ジャパニーズ
〜読み手(他者)を意識し、意図を伝える〜」

☆ワークショップファリテーター:新井一樹氏
・シナリオとシナリオ発想
・シナリオを書いてみよう
・シナリオ発想とアカデミックジャパニーズ〜教育現場での活用法を考える〜
16:40 まとめ
17:00 閉会


ワークショップの詳細についてはこちらの開催報告をご覧ください。