アカデミック・ジャパニーズ・グループ研究会

2013年度

第30回研究会

実践研究からアカデミック・ジャパニーズを考える
私たちAJGの会員は様々な実践の場でことばの教育に携わっています。そして昨今、日本語教育における
実践研究の必要性・重要性が指摘されています。しかし自らの実践内容を、研究としてなぜ、どのように
記述していくのか,ということはAJG内ではほとんど話し合われてこなかったのではないでしょうか。
そこで6月の研究会では、実践研究とは何かを議論し、そこから私たちの実践の場からどのような発信が
できるのかを考えていきました。前半は門倉正美氏、細川英雄氏の講演の後、明治大学教授の横田雅弘氏を迎え、
3氏のパネルディスカッションで実践研究とは何かを議論、問題を提起しました。その後グループで話し合い、
広い視野を持って、AJにおける実践研究とは何か、なぜ実践研究か、AJの実践をどのように記述するのかを、
具体的に意見交換していきました。

第30回研究会世話人
江森悦子(アークアカデミー)
影山陽子(日本女子体育大学)
木下謙朗(朝日大学)
佐藤正則(早稲田大学)

日時:2013年6月22日(土)13時00分~17時30分
場所:早稲田大学22号館202教室

プログラム
13:00 ~ 13:30  総会
13:30 ~ 13:45  休憩・非会員受付

13:45 ~ 14:30  基調講演 
「アカデミック・ジャパニーズ(AJ)における実践研究とは何か-
「研究論文」および「実践報告」とどう違うか」 門倉正美氏

AJに限らず日本語教育のような現場をもつ教育研究において、現場での自らの実践や他者の実践への
深い考察や掘り下げが必要であることは言うまでもないだろう。問題にしたいのは、日本語教育界において、
そうした「実践への深い考察」が十分に評価されていない、端的に言えば、「研究論文」として
評価されにくいという現状である。
例えば、学会誌『日本語教育』では、「実践への深い考察」の多くは「実践報告」とされがちであり、
「実践報告」は「研究論文」よりも一段下に評価されがちである。それでは、評価者はどのような
評価基準によって「研究論文」と「実践報告」とを区分しているのだろうか。こうした点は、
『アカデミック・ジャパニーズ・ジャーナル』においても他人事ではない。
「実践への深い考察」(それを「実践研究」と呼ぶとする)とはどのような「考察」および「記述」を
指すのかが問われる必要があるが、ここではまず「実践研究」と「研究論文」および「実践報告」とは
どのように違うのかという点から考えてみた。

当日のスライドがこちらからご覧いただけます。

14:30 ~ 15:15  講演 
「なぜアカデミック・ジャパニーズ(AJ)に実践研究が必要なのか
-「AJとは何か」という問いに関連して」細川英雄氏

実践研究は今世紀に入って急速に注目されるようになった。まず日振協プロジェクトの冊子発行(2001)が
比較的早い例だが、これは日本語学校の実践への強い注目によるものである。その後、教育学・心理学の
影響を受けつつ、次第に進展し、2005年の日本語教育の実践報告の特集は、実践研究への第一歩の感がある。
それから、かれこれ10年近く経ち、今、AJと実践研究の関係が問われようとしていることは何を意味する
のだろうか。実践研究とは、私見によれば、実践=研究の思想である。つまり、実践することは研究する
ことであり、研究することは実践であるという考え方であるといっていい。この場合、必ずしも、実践とは
教室活動に限定されない。むしろ社会活動における実践も含みつつ、人が考え行動することそのものが
実践であると解釈することになる。それは、実践研究の本来の起源であるアクションリサーチそれ自体の持つ
社会変革の思想であるといえる。
このように考えると、なぜAJにとって実践研究が必要なのか、あるいは、今なぜAJと実践研究の関係を
問わなければならないのかという疑問が生ずる。それは、「AJとは何か」という問いと関連している。
AJとは、日本語教育という分野・領域の中で何を目的とし、何をめざした活動なのかという問題と不可分
だからである。
今回の発表では、こうした私自身の疑問をAJ研究会に投げかける形で、AJと実践研究との関係について
考えてみた。  
当日のスライドがこちらからご覧いただけます。

15:30 ~ 16:15  鼎談
「実践研究の可能性」 門倉正美氏・細川英雄氏・横田雅弘氏

16:15 ~ 17:20 グループディスカッション+共有      
17:20 まとめ
17:30  閉会

 研究会の詳細につきましては、こちらの開催報告をご覧ください。

第31回研究会

あたりまえを解きほぐすまなびを学ぶワークショップ

近年、MOOCs(大規模オンライン講座)によって大学の講義を公開する動きが急速に広がっており、インターネットを使える環境にあれば、世界中どこからでも無料で大学レベルの講義を受講できるようになりました。また、今年からアメリカの Courseraが運営するMOOCsに東京大学が、MITとハーバード大学が共同で設立したedXには京都大学が参加するなど、日本の大学も参加を表明しています。一方、有料ではありますが、全面オンラインによる日本語教育プログラムを提供する日本語教育機関も現れ始めました。このような中、お金を払って「学校に来て対面で学ぶ」(日本語学習者の場合は日本に留学する)ことの意味が根底から問い直されており、私たち日本語教師の役割も転換期を迎えていると感じています。

今回の研究会では学習環境デザイン論、学習コミュニティデザイン論がご専門の苅宿俊文先生(青山学院大学情報学部教授)をお迎えし、私たちを取り巻く日本語教育の状況について考えるワークショップを通して「まなびを学ぶ」体験を、そして、これからの日本語教育のありかたについて考えていきました。

第31回研究会 世話人
清水まさ子 (国際交流基金)
高橋 薫  (東洋大学)
武 一美  (早稲田大学)
宮崎七湖  (早稲田大学)

日時 2013年11月17日(日)13:00~16:45
会場 早稲田大学 22号館201教室
定員 80名
参加費:AJG会員 無料
非会員 2,000円

プログラム
13:00 会員報告
13:20 趣旨説明

13:30~16:30 ワークショップ
ファシリテーター: 苅宿俊文氏(青山学院大学情報学部教授)

13:30~14:20 講演 ワークショップがなぜ必要か?
14:20~14:30 休憩
14:30~15:15 グループワーク 
これまでの自身を取り巻く日本語教育を考える
これまでの日本語教育の現状把握+問題点整理+打開策について、グループワークを通して考えていきました。
15:15~15:25 休憩
15:25 ~16:10  グループワーク 
これからの日本語教育を考える グループのプレゼンテーションを行い、グループ間の情報交換を行いました。
16:10~16:30 質疑応答

第32回研究会

午前:会員ポスター発表  
午後:講演&ワークショップ
サブカルチャーを/で“学ぶ”―メディアコンテンツを使いながら授業を行うためのノウハウ

近年、留学生対象の日本語教育分野では、国内外でサブカルチャーを題材にした授業づくりが行われています。そこでは、たとえばマンガを題材として、出てきた擬音語やジェンダー表現など、言語的な要素に焦点を当て、それらを学習するというものが多いようです。
一方で、大学では、教室の内と外を結ぶ、プロジェクトワークやフィールド調査などを用いた「活動型の学び」を導入する必要性も提唱されています。しかし、上述の言語学的なもの以外の「分析の視点」をもとに「活動型の学び」を実践していくという手法は、まだ十分に練られているとはいえません。
今回の研究会では、「マンガ・アニメ論」や「エンターテイメント映像論」といったポップカルチャーを題材とした授業において、プロジェクトワークやフィールド調査を学生に行わせる授業を実践していらっしゃる、田中東子先生(十文字学園女子大学准教授)を講師にお迎えし、メディアコンテンツを用いた授業実践の設計や工夫をご紹介いただき、あわせて「サブカルチャーを学ぶ」「サブカルチャーで学ぶ」際の分析視点や手法について、ワークショップを通して学んでいきたいと思っています。

第32回研究会 世話人
大島 弥生 (東京海洋大学) 
小笠 恵美子(東海大学)
ボイクマン総子 (東京大学)
松本 明香 (東京立正短期大学)

日時 2014年2月8日(土)10:00~17:00
会場 東京海洋大学 品川キャンパス 白鷹館
定員 80名
参加費:AJG会員 無料
非会員 1,000円(非会員の方の当日の入会も受け付けます。)

プログラム
10:00 ~10:30       受付 
10:30 ~12:00       会員ポスター発表
12:00 ~13:30       昼食兼交流会            
13:30 ~15:30      講演:田中東子氏(十文字学園女子大学 准教授)
サブカルチャーを/で“学ぶ”―メディアコンテンツを使いながら授業を行うためのノウハウ
15:30 ~16:00      共有&質疑応答
(当日は大雪のため、時間と内容を若干変更して行いました


会員ポスター発表の内容 (発表者名五十音順
中国の大学におけるアカデミック・ジャパニーズ養成
―A大学の中国人日本語教師へのインタビューをもとに― 
大島弥生(東京海洋大学)

学びを支えるアカデミック・ジャパニーズの養成は、国内のみならず海外の教育機関でも行われている。特に、中国の大学の日本語専攻においては、日本語による卒業論文作成が課されており、高レベルのアカデミック・ジャパニーズの能力が求められている。しかし、その養成過程にはさまざまな困難があり、個々の教員は対応に苦慮している。本発表では、中国A大学日本語専攻で卒論指導を担当する4名の中国人日本語教師へのインタビューをもとに、指導の方法、問題点とその対応、卒論の意義とその認知度、期待される支援などについてどう捉えられているかを報告し、日本国内の実践や教材開発等と協働で対応できることがないかについて検討する。

日本・中国・世界を考える「日本事情」の試み」
髙橋圭子(東洋大学)

学部留学生対象の授業「日本事情」で、DVDを用いて、日本の社会を考える授業を実施した。受講生の大半が中国出身者であったため、日本の社会の問題を提示しながら、学生たちが出身国や世界全体の問題について考えるヒントとなるよう、構成を考えた。障害者、在日外国人、アイヌ民族を取り上げた。授業時の議論において、中国では少数民族優遇政策がとられ、大学入試で加点制度が設けられているが、これは漢族にとっては不公平に感じる、という声が上がり、アファーマティブ・アクションもテーマに加えた。学生たちが、それぞれにいろいろなことを感じ、考えてくれた感触はあるが、議論が不十分だった点は否めない。参加者との議論により、授業改善につなげたい。

日本語ライティングセンターによるアカデミックライティング支援
西 菜穂子(神田外語大)

神田外語大学では、2013年度から附属図書館内に日本語ライティングセンターを常設化した。日本語母語話者と非母語話者の双方を対象にして、日本語教育が専門の専任講師1名とキャリア教育が専門の非常勤講師1名で、1回30分の個別相談と、少人数制の講座を行っている。本発表では、初年度の運営における(1)センターの概要、(2)個別相談の利用状況、(3)6回完結の文章作成講座での実践について、特に、アカデミックライティング支援を目的にした(3)に焦点を当てて報告する。さらに、図書館職員や教員との連携の必要性、ライティング不安に対するサポート態勢の充実等、アカデミックライティング教育における課題について示唆を述べる。

初年次教育の日本語表現科目としての基礎演習におけるピア・レスポンス
―日本人学生のレポートの分析を中心に―
福岡寿美子(流通科学大学)

これまで日本人学生と交換/学部留学生、学部留学生(交換留学生を含む)同士等のクラスにおいて、それぞれピア・レスポンスを実施し研究を行ってきた。本研究では、本学において2001年度から初年次教育の一環として行われてきた、レポート作成を主な目的とした日本語表現科目としての「基礎演習」のクラスにおいて、日本人学生同士によるピア・レスポンスの実施を試みた。2005年度からはテキストとして、『ピアで学ぶ大学生の日本語表現』を使用している。日本人学生同士におけるピア・レスポンスの特徴とその困難点等について明らかにすることを目的とする。そして、その解決試案を提案したい。

コミュニティー参加のための日本語学習
ボイクマン総子(東京大学)

大方の日本語教員にとって、日本語学習は日本語を使うためにある、ということに異存はないだろう。自分が行っている授業が本当の意味で使うための日本語 になっているかという反省に立ち、同時に、短期留学ではなく正規の学部生であるという履修者の属性を鑑み、発表者は、授業履修者が自分の属する大学の生活をよりよくするための貢献の活動を日本語授業で試みている。本授業実践は、履修者自らの生活の改善だけでなく、彼らの大学というコミュニティーへの参加にもつながる。具体的には、大学に提出する要望書とビデオレターの作成を行っている。また、その前段階としてe-mailの書き方なども学んでいる。発表に際しては、実践の試行錯誤の詳細を提示し、情報共有を行いたいと思う。

聴解クラスにおけるディクトグロスの実践―(学習者の)運用力の強化をめざして―
山口惠子(桜美林大学)・鈴木秀明(目白大学)

日本語運用力の向上に有用で(山口・尾崎、2013)、学習ストラテジーの涵養に寄与する活動(鈴木・山口、2013)とされるディクトグロスを、聴解クラスの授業内で9回にわたり実践した。調査対象者は国内の留学生別科の上級クラスに在籍する日本語学習者16名であった。実践終了時に行った学習者アンケート(選択式・記述式)を分析したところ、ディクトグロスが同時に複数の能力を活性化させ、総合的学習に有用である旨の記述コメントが複数見られ、先行研究を支持する結果になった。また、実践の過程で、学習者は聴解のみならず、語彙や文法も同時に学習していたことや、理解力や認知力を必要とする活動であったことを意識化させたことも確認された。